第五章 カルエルの演説
カルエルは、その部屋に入るなり朗々とした声で言った。
「みなさん! 待ち望んでいた人々がやってきました! 予言されていた正義の騎士たちが、私たちを救いに来てくれたのです! みなさん、歓迎の拍手を!」
群衆たちは雑談をやめて、カルエルの方を振り向いた。そして新しく来た4人を見ると、大声で歓迎の言葉をかけ、アシュレイたちのそばにどっと近づいてきた。リュートの背中を叩くもの(痛いっ! とリュートは叫んだが、だれも気にしなかった)、アシュレイに「勇者の剣を見せてくれ」とねだるもの、そしてオルデュースのたくましい腕を取ろうとするもの。なぜかギュスだけはその群衆から無視されていた。魔法使いの格好をしているために、「正義の騎士団」と見られなかったようだ。不公平だ、とギュスはぶつぶつ言っているが、歓迎されて悪い気のする人はあまりいないもので、リュートもオルデュースも、みんな照れて顔を赤らめたり、魔族との戦いの話をして見せたり、ルギドへの反発を口にしたりしていた。ただアシュレイだけは油断ない表情で、観察するのを忘れていない。
「さあさ、みなさん静粛に」
カルエルは、慣れた口調でそう言うと、手早く群衆を黙らせてしまった。その手腕の確かさに、ギュスはこいつはただの男じゃないなと思い始めている。
「自己紹介をしていただきましょう。まずは私どもから」
というと、カルエルは群衆のあつまっている大きなテーブルの上に立った。泥だらけの靴でテーブルが汚れたが、カルエルは気にもしていない様子だ。
「私たちの世界は、いま、危機に瀕しています!」
カルエルは、拳を握りしめて叫んだ。
「ティトス界は魔族の魔の手によって穢され、蹂躙され、そして支配されています!
あなたたちは、今、幸せですか?
あなたたちは、今、満たされていますか?
なにかが足りない、そう思うのは、我々をこんな状態に陥れた、魔族のせいなのです。
我々の傲慢さを警告するために、あの運命の三年前、畏王が降臨したのです。
あのとき数万の人々が犠牲になったのは、その畏王の火によって我々の罪があがなわれるためでした。その事実をしかと認識し、深く悔い改めないと、再び畏王の降臨がおこるでしょう」
カルエルは、すっと指をリュートにつったてた。
「悔い改め、信仰を積めば、必ずいいことがあります。リュートさん! こちらへどうぞ」
リュートはぎょっとして一瞬飛び上がったが、周りの群衆が期待をするような目でこちらを見ているので、落ち着いたふりをして、必死でとりつくろった。
「な、なんだい」