第三章 祭司長カルエルとの出会い
「おお、そこを通るのは正義の騎士オルデュースさま!」
小ずるそうな男は大きな、よく通る声でそう言うと、台から転げ落ちるように降りてオルデュースに駆け寄った。群衆は、まるで海が割れるように、右と左にざざっとあとずさった。その割れた海の真ん中の道を、小走りに走ってくるカルエル。
「そして、そのお隣におられるのは、勇者アシュレイさまではありませぬか!
みなさん、ご覧下さい。四つの精霊のお導きは正しかった。この乱れた世の中を救う、選ばれた人々が
ついに我らを救いに来たのです!」
思いっきり芝居がかった口調で言うと、その男は今はじめて気づいたようにリュートを見つめた。
「おお、見るもふびんなその背中の傷。よければ癒して差し上げましょう。その癒しの魔法をもって、あなたがた正義の騎士団に対するご挨拶とさせていただきます」
「正義の騎士団だってさ、オレは仲間に入ってないわけ?」
ギュスはぼそっと言った。
その男は自分が祭司長カルエル・バナーであると自己紹介した。
「憂国の騎士たちと一緒に行動できるとは、私はなんて幸運なのでしょう!」
カルエルはそう言うと、アシュレイの手を取った。そのねっとりした感触にぞっとして、アシュレイはその手をふりほどこうとしたが、カルエルはしっかりとつかんで離そうとはしなかった。
「さあさ、こちらへ、こちらへ」
カルエルが、どこかへアシュレイを連れて行こうとしている。さりげなく、三人の群衆がリュートの背後に立った。その表情にはなにか、飼い慣らされた山羊のような、うすらさむい不気味なやすらぎがあった。リュートはおびえたように三人を見あげた。カルエルを敵にまわしたら、かなりやっかいなことになりそうだ、とギュスは思った。この群衆は、カルエルの思い通りに動いている。どうあっても、こいつらは、自分のアジトへ連れて行きたいらしい。抵抗しようにも、オレたちは、サルデス国民にたいして、危害を加えるわけにはいかないのだ。